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「想定外の出来事」の中に見出す、新しい豊かさ

Tags: 想定外, 変化, 柔軟性, 新しい豊かさ, 思考実験

想定外をどう捉えるか

私たちは日々の生活において、何かしらの計画を立てて過ごしています。長期的な人生設計から、その日の予定、あるいは週末の過ごし方に至るまで、大小様々な計画に基づいて行動することが多いでしょう。計画通りに進むことは、安心感や達成感をもたらし、安定した状態として心地よく感じられるものです。

しかし、人生は常に私たちの計画通りに進むわけではありません。予期せぬ出来事、想定外の状況は、多かれ少なかれ誰の身にも起こりうるものです。そのような時、私たちはつい立ち止まり、戸惑い、場合によっては失望を感じるかもしれません。「計画が狂った」「思い通りにならない」という状態を、「失ったものがある」「目標が達成できない」といった「少ない=貧しい」状況として捉えてしまうことがあるのではないでしょうか。

ですが、本当にそうでしょうか。想定外の出来事は、私たちから何かを奪うだけのものでしょうか。そこには、別の種類の豊かさが隠されている可能性はないのでしょうか。今回は、「想定外の出来事」という、一見するとネガティブに捉えられがちな事柄の中に、新しい豊かさを見出すための思考実験を試みたいと思います。

計画通りに進むことへの信頼

なぜ私たちは、想定外の出来事をネガティブに捉えがちなのでしょうか。一つには、計画通りに進むことへの強い信頼があるためかもしれません。計画は、ある程度の未来を予測し、コントロールしようとする試みです。それが成功することは、自分自身の能力や状況を把握できていることの証のように感じられ、安心につながります。予測可能な状態、コントロール可能な状態が「豊かな状態」であるという価値観は、現代社会においては非常に一般的であると言えます。

しかし、この「コントロールできることこそ豊かさ」という思い込みが強いほど、想定外の出来事に出会った時の落胆は大きくなります。計画通りに進まない状況を「失敗」「損失」と見なし、そこから得られるはずだったもの、享受できるはずだった「豊かさ」が失われたと感じてしまうのです。

想定外の出来事がもたらすもの

では、想定外の出来事という「計画通りではない状態=少ない状態」の中に、どのような新しい豊かさを見出すことができるのでしょうか。視点を変えてみることで、これまで見えなかった価値が見えてくるかもしれません。

例えば、旅行の計画が急に変更になったとします。行きたかった場所に行けなくなり、当初の目的は果たせませんでした。これは確かに計画通りではなく、「当初の予定していた体験」という意味では「少ない」状況かもしれません。しかし、代わりに立ち寄った場所で、偶然心惹かれる風景に出会ったり、地元の人との温かい交流があったりするかもしれません。あるいは、思いがけずできた時間で、これまで読めなかった本をじっくり読むことができた、ということもあるでしょう。これらは、計画通りであれば決して得られなかった、全く別の種類の豊かな経験です。

また、想定外の出来事は、私たち自身の内面に働きかけることもあります。困難な状況に直面し、それを乗り越えようと試行錯誤する過程で、これまで気づかなかった自身の強さや、柔軟な対応力が養われることがあります。予期せぬ状況に適応する中で、凝り固まっていた考え方がほぐされ、新しい視点が開けることもあるでしょう。これらは、物質的な豊かさや計画の達成とは異なる、内面的な成長という新しい豊かさであると言えます。

さらに、想定外の出来事は、他者との関係性を深めるきっかけになることもあります。困った時に差し伸べられた助けや、共に予期せぬ状況を乗り越えた経験は、計画通りに進んだ時には生まれなかったであろう、強い信頼やつながりを生む可能性があります。

「少ない=貧しい」の問い直し

このように見てくると、想定外の出来事は、必ずしも「少ない=貧しい」わけではないことが分かります。確かに、それは当初の計画から外れた状態であり、特定の目的達成という点では「少ない」かもしれません。しかし、それは単に「別の種類の要素が多い」状態、と捉え直すこともできます。

計画通りではないからこそ生まれる、新しい発見や出会い。 困難に適応することで培われる、内面的なしなやかさ。 予期せぬ状況で明らかになる、人との深いつながり。

これらは、私たちが「豊かさ」と聞いて思い浮かべがちな、物質的な所有や、社会的な成功、あるいは全てをコントロールできている状態とは異なります。しかし、これらもまた、人生を彩り、心を豊かに満たす、かけがえのない価値であると言えるのではないでしょうか。

想定外の出来事を、「計画通りに進まなかった失敗」と捉えるのではなく、「予期せぬ贈り物」として受け取る、という思考実験は、私たちの価値観を大きくシフトさせる可能性を秘めています。完璧な計画や予測可能性に過度に価値を置くことから少し離れて、目の前で起こる「想定外」の中に隠された、新しい豊かさの種を見つけ出そうとすること。それは、予測不能な人生を、より軽やかに、そしてより豊かに生きるための大切な視点となるかもしれません。

あなたのこれまでの人生で、最も印象に残っている「想定外の出来事」は何でしょうか。そして、今振り返ってみて、その出来事があなたにもたらした、新しい豊かさはどのようなものだったでしょうか。