「悲しみは避けるべきもの」の思い込みを問い直し、その中に見出す新しい豊かさ
悲しみという感情への問いかけ
私たちは、喜びや楽しみといったポジティブな感情を積極的に求め、悲しみや苦しみといったネガティブとされる感情からは、できる限り距離を置こうとする傾向があるかもしれません。特に悲しみは、心の痛みや喪失感と結びつくことが多く、避けたい感情の代表のように捉えられているように思われます。
しかし、本当に悲しみはただ「避けるべきもの」なのでしょうか。私たちは無意識のうちに、「悲しみがある状態は良くない状態、つまり豊かではない状態だ」という思い込みを抱いているのではないでしょうか。
ここでは、「価値観シフトLab」の視点から、この「悲しみは避けるべきもの」という思い込みを問い直し、悲しみという感情の中にも存在するかもしれない、新しい豊かさの基準について思考を巡らせてみたいと思います。
なぜ私たちは悲しみを避けたがるのか
私たちが悲しみを避けたがるのには、いくつかの理由が考えられます。まず、悲しみは身体的、精神的な痛みを伴うことが少なくありません。過去の出来事や失ったものに対する後悔や無力感を感じさせ、私たちのエネルギーを奪うように感じられることもあります。また、社会的には明るく元気でいることが良しとされがちな風潮の中で、悲しんでいる自分を見せることや、自分自身が悲しみに浸ることに抵抗を感じることもあるかもしれません。
このような経験や社会的な見方から、「悲しみは少ない方が良い」「悲しんでいる状態は望ましくない」という思い込みが強化されていくのかもしれません。そして、「悲しみに満ちている状態=精神的に貧しい状態」といった連想に繋がることも考えられます。
悲しみの中に隠された新しい豊かさとは
しかし、悲しみという感情は、本当に私たちから豊かさを奪うだけのものなのでしょうか。視点を変えてみることで、悲しみの中にこそ、他の感情では得られない大切なものが隠されていることに気づくかもしれません。
悲しみは、私たちを立ち止まらせる力を持っています。忙しい日常の中では見過ごしがちな、自身の内面や、これまで大切にしてきたものと向き合う静かな時間を与えてくれることがあります。失ったものを悲しむとき、私たちはそれが自分にとってどれほど大切なものであったのかを深く認識し、感謝の気持ちを再確認する機会を得るかもしれません。
また、悲しみを経験することは、他者への共感力を深めることにも繋がります。自分が心の痛みを経験したからこそ、同じように苦しんでいる人の気持ちに寄り添うことができるようになります。これは、表面的な関わりだけでは得られない、人間関係における深い繋がりや共感という新しい豊かさをもたらす可能性があります。
さらに、悲しみは人生の奥行きを教えてくれる感情でもあります。人生には、喜びだけでなく、苦しみや悲しみも存在します。それらを受け入れることで、人生の複雑さや多様性を理解し、感情の機微に対する感性が豊かになります。これは、単純な楽しさだけでは測れない、精神的な成熟や深みといった新しい豊かさと言えるでしょう。
悲しみを「受け入れる」思考実験
悲しみを無理に追い払おうとするのではなく、「今、自分は悲しいと感じているのだな」と、その感情をあるがままに受け入れてみることは、一つの思考実験かもしれません。それは決して弱さを示すことではなく、自身の内面に対する誠実な姿勢であるとも考えられます。悲しみを感じることを自分に許し、その感情が何を伝えようとしているのかに耳を傾けてみる。そうすることで、そこから何か大切な学びを得たり、自分自身の新たな側面を発見したりする可能性があるのではないでしょうか。
例えば、長年大切にしてきた何かを手放すときの悲しみは、その対象への深い愛着や感謝を改めて教えてくれます。人生の節目で感じる喪失感は、これまでの歩みを振り返り、これからの人生で何を大切にしていきたいのかを考えるきっかけとなるかもしれません。これらの経験は、一見「少ない」状態、つまり失われた状態から生まれるものですが、それがもたらす内省や気づきは、私たちの心にかけがえのない豊かさをもたらすことがあります。
まとめ
私たちは「悲しみは避けるべきもの」という思い込みから、悲しみがある状態を「貧しい」と感じてしまうことがあるかもしれません。しかし、悲しみは単にネガティブな感情として排除されるべきものではなく、私たち自身の内面を深く知り、他者と深く繋がり、人生の豊かさをより深く理解するための機会を与えてくれる可能性を秘めています。
悲しみを感じることを自分に許し、その感情がもたらす内省や共感、人生の深みといったものに目を向ける思考実験は、「少ない=貧しい」という固定観念を超え、心のあり方や人間関係における新しい豊かさの基準を見つける手助けとなるのではないでしょうか。
あなたにとって、悲しみという感情はどのような存在でしょうか。その中に、思いもよらない豊かさが隠されているかもしれません。