価値観シフトLab

「『答えを出すこと』への急ぎを問い直し、未完了や曖昧さに見出す新しい豊かさ

Tags: 価値観シフト, 新しい豊かさ, 思考実験, 曖昧さ, 心のゆとり

はじめに

私たちは、日々の生活の中で、様々な問いに直面します。仕事のこと、人間関係のこと、そして自分自身のこれからについて。そうした問いに対し、私たちはつい「早く答えを出さなければ」と急いでしまう傾向があるかもしれません。曖昧な状態や未完了のままでは、どこか落ち着かない、不安定であると感じてしまうからです。

「答えが出ている状態こそが安定であり、未完了や曖昧さは貧しい状態である」という、知らず知らずのうちに根付いた思い込みがあるのかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。今回は、「答えを出すこと」への急ぎを一度問い直し、未完了や曖昧さという状態の中に、どのような新しい豊かさが宿るのかを思考実験してみたいと思います。

なぜ私たちは答えを急ぐのか

私たちが答えを急ぐ背景には、いくつかの理由が考えられます。一つには、現代社会が効率や即時性を重視する傾向にあることが挙げられます。情報過多の時代にあって、素早く判断し、次の行動に移ることが求められる場面が多いからです。また、「はっきりしない」状態への不安や、コントロールできないことへの恐れもあるかもしれません。答えを出せば、その状況を理解し、対処できると感じるからです。

さらに、「正しい答え」を持つことや、迷いのない態度を示すことが評価される場面があるため、無意識のうちに早く答えを出そうとしてしまうことも考えられます。こうした積み重ねが、「答えが出ていない状態=不十分、貧しい」という思い込みを強化しているのではないでしょうか。

しかし、人生において、すぐに白黒つけられることばかりではありません。むしろ、多くの大切な事柄は、時間をかけて考え、感じ、時には立ち止まることで、初めて見えてくるものがあるのではないでしょうか。

結論を急がないことで見えてくるもの

結論を急がず、未完了や曖昧な状態にしばらく留まってみることは、私たちにいくつかの新しい視点をもたらしてくれます。

すぐに答えを出そうとすると、私たちは目の前の選択肢や情報に飛びつきがちです。しかし、時間をかけることで、状況を多角的に見つめ直すゆとりが生まれます。最初は見えなかった側面に気づいたり、異なる可能性を探求したりする機会が得られるのです。これは、まるで急いで本を読み終えようとせず、ゆっくりとページをめくり、行間にあるニュアンスを味わうようなものです。急ぐだけでは得られない、深い理解や洞察が生まれる可能性があります。

また、完璧な答えや結論を求めすぎないことは、心の状態にも良い影響を与えるかもしれません。常に「正解」を探し求め、早くそれにたどり着こうとするプロセスは、時に私たちに不要なプレッシャーや焦りを与えます。未完了や曖昧さを受け入れることは、肩の荷を下ろし、心に静けさをもたらすことにつながるのではないでしょうか。

未完了や曖昧さの中に宿る新しい豊かさ

では、具体的に未完了や曖昧な状態の中に、どのような豊かさを見出すことができるのでしょうか。

一つは、探求の喜びです。答えが出ていない状態は、未知への扉が開いている状態とも言えます。その扉の先には何があるのか、どのように進んでいくのかを探求するプロセスそのものが、私たちに刺激と喜びをもたらしてくれます。これは、すべてが設計図通りに進む状態とは異なる、予測不能な面白さです。

二つ目は、他者との繋がりです。自分一人で完璧な答えを出そうとするのではなく、「まだよく分からない」「一緒に考えてほしい」と素直に表現することで、他者との対話が生まれます。それぞれの視点や経験を分かち合う中で、自分だけでは気づけなかったことに光が当たるかもしれません。答えを共有するのではなく、答えを探求するプロセスを共有することで生まれる、新しい形の繋がりです。

三つ目は、変化への柔軟な対応力です。固定された結論を持ってしまうと、状況が変わった時にその答えに固執してしまい、身動きが取れなくなることがあります。しかし、曖昧さの中に留まることは、変化の可能性を常に視野に入れている状態です。これにより、予期せぬ出来事に対しても、より柔軟に対応できるようになるかもしれません。

そして、創造性の源泉となる可能性も秘めています。すべてが整然と完了した状態よりも、どこか未整理で、要素が結びついていない状態の方が、私たちの創造性を刺激することがあります。異なるアイデアが偶然に出会い、思いがけないひらめきが生まれる余白が、未完了の状態には存在しているからです。

思考実験:結論を急がない一日

もし、あなたが日々の小さな出来事において、「すぐに答えを出さなくても良い」という許可を自分に与えてみたらどうなるでしょうか。例えば、読んだ本や映画の感想について、すぐに「良かった」「悪かった」と判断せず、心の中にその余韻や問いをしばらく留めてみる。あるいは、誰かとの会話で、相手の言葉に対し、すぐに自分の意見や結論を述べず、ただ耳を傾け、感じてみる。

こうした小さな思考実験を重ねることで、「答えが出ていない状態」が、決して不安で貧しいものではなく、むしろ静けさや探求心、そして新しい繋がりを生み出す豊かな土壌であることに気づくかもしれません。

終わりに

私たちは、「答えが出ている状態」や「完了した状態」に安心感を求めがちです。それは、コントロール欲や安定志向から生まれる自然な心の動きかもしれません。しかし、人生の後半を迎えるにあたり、すべてを白黒はっきりさせようとすることの「重み」から解放され、「答えを急がない」という選択肢を許容することも、新しい豊かさの基準となり得るのではないでしょうか。

未完了の余白や、曖昧さの中にある揺らぎは、決して不足や貧しさを示すものではありません。そこにこそ、探求の喜び、他者との深いつながり、変化への柔軟性、そして創造性の可能性が宿っているのかもしれません。あなたにとっての「答えを急がない豊かさ」とは、どのようなものでしょうか。この思考実験が、その問いを探求するきっかけとなれば幸いです。