『自分の中の評価基準』を問い直し、新しい豊かさの基準を見つける思考実験
はじめに
人生の歩みを進める中で、私たちは様々なものに出会い、多くの経験を積み重ねてまいります。その過程で、自分自身の中に「良い」とか「価値がある」といった、物事や自分自身を評価する基準が無意識のうちに形成されていきます。この「自分の中の評価基準」は、私たちが何を大切にし、何を目指して生きていくかに深く関わっています。
しかし、その基準は本当に自分自身の内なる声に基づいたものなのでしょうか。あるいは、知らず知らずのうちに、社会の価値観や他人の目、過去の経験などに影響されて築かれたものではないでしょうか。
この思考実験では、「少ない=貧しい」という一般的な思い込みを問い直す視点から、『自分の中の評価基準』を見つめ直し、新しい豊かさの基準を見つける可能性について考えてまいります。
私たちの評価基準はどこから来るのか
私たちが「これが素晴らしい」「これは価値がある」と感じる基準は、一朝一夕にできるものではありません。幼い頃に褒められたこと、学校で教えられたこと、メディアが伝える成功者の姿、周囲の人々が価値を置くものなど、様々な情報や経験が積み重なって形作られます。
特に社会的な評価や物質的な豊かさは、多くの場面で「成功」や「価値」の象徴として示されることが多く、私たちは無意識のうちに、より多くを持つこと、より高い地位を得ること、他者から認められることなどを「良いこと」「目指すべきこと」と捉えがちです。
このような外部からの影響によって作られた評価基準は、時に私たち自身の内なる声や、本当に大切にしたいものとの間にズレを生じさせることがあります。例えば、多くのモノを持っていても心が満たされない、社会的に成功していてもどこか虚しさを感じる、といった経験は、評価基準と内なる声の不一致を示唆しているのかもしれません。
「少ないこと」の中に価値を見出す新しい評価基準
「価値観シフトLab」が提案する「少ないことの中にある豊かさ」という視点は、既存の評価基準を問い直すための一つの鍵となります。物質的な所有や社会的な肩書きが少なくても、情報量が少なくても、あるいは時間的な余裕が少なくても、そこには別の種類の豊かさが存在し得ます。
例えば、厳選された少数のモノに囲まれた暮らしには、一つ一つを慈しむ心や、管理の手間から解放される心地よさがあります。広い交友関係ではなく、深く信頼できる数少ない友人との関係には、安心感と真の意味での支えがあります。多くの情報に追われるのではなく、限られた質の高い情報と向き合う時間には、深い理解と心の落ち着きが得られます。
このような「少ないこと」の中に見出される価値は、量や多さでは測れない、質や深さに根差したものです。自分の中の評価基準を、量的なものから質的なものへ、外的なものから内的なものへとシフトさせることで、これまで見過ごしていた豊かさに気づくことができるのではないでしょうか。
新しい豊かさの基準とは、もしかしたら、心の平穏、充足感、人との温かい繋がり、自然との調和、自分自身の成長、誰かの役に立てたという静かな喜び、といった、目には見えにくい、しかし確かに感じられるものの中にこそ見出されるのかもしれません。
自分の中の評価基準を「シフト」させる思考実験
では、具体的にどのように自分の中の評価基準を問い直し、シフトさせていくことができるでしょうか。一つの方法として、以下のような思考実験が考えられます。
まず、これまでの人生で自分が無意識のうちに「良いこと」「価値があること」としてきたのは、どのようなことだったかを振り返ってみてください。それは、お金を多く稼ぐことでしたか。高い地位に就くことでしたか。多くのモノを所有することでしたか。あるいは、他人から褒められること、常に忙しくしていることだったでしょうか。
次に、もしこれらの基準から一旦離れて、全く新しい視点で自分自身の人生や周囲の世界を評価するとしたら、何に価値を見出すようになるかを想像してみてください。例えば、
- 持っているモノの数ではなく、それぞれのモノに対する愛着や物語に価値を見出す
- 達成した目標の大きさではなく、目標に向かう過程で得られた学びや経験に価値を見出す
- 他人からの評価ではなく、自分自身が心の底から納得できる選択ができたことに価値を見出す
- 時間の密度や忙しさではなく、ゆったりとした時間の中で感じられる心の静けさや気づきに価値を見出す
このように、これまでの「多いこと」「目立つこと」「認められること」に焦点を当てた評価基準から、「少ないこと」「内なる感覚」「質の高い繋がり」に焦点を当てる新しい評価基準へと、意識的に焦点を移してみるのです。
この思考実験を通して、物質的な豊かさや社会的な成功といった一つの物差しだけでは測りきれない、人生の多様な豊かさがあることに気づくことができるでしょう。そして、自分自身の内なる声に耳を澄ませ、本当に大切にしたいものに基づいた評価基準を持つことが、心の軽やかさや真の充足感に繋がる道であることに気づかされるかもしれません。
終わりに
私たち一人ひとりが持つ「自分の中の評価基準」は、人生を彩る大切な羅針盤のようなものです。しかし、その羅針盤が外部の基準に強く影響されているとしたら、本当に目指したい方向とは異なる場所へ進んでしまう可能性も考えられます。
自分自身の評価基準を問い直し、社会の価値観や他人の目から一旦離れて、自分にとっての新しい豊かさの基準を見つけること。それは、人生の後半をより自分らしく、心穏やかに生きるための重要な一歩となるのではないでしょうか。
あなたにとっての「新しい豊かさの基準」は、どのようなものでしょうか。ぜひ、ご自身の内なる声に耳を澄ませ、考えてみていただければ幸いです。