「広い家こそ豊かさ」の思い込みを問い直し、少ない空間に見つけ出す新しい豊かさ
住まいと豊かさを巡る「思い込み」
私たちの社会では、長い間「広い家」や「たくさんのモノに囲まれた暮らし」が豊かさの象徴とされてきました。高度経済成長期を経て、物質的な豊かさを追求することが一つの大きな目標とされた時代背景があるのかもしれません。より広く、より多くのモノを持つことが、頑張った証であり、幸せの形であるかのように受け止められてきた側面があるのではないでしょうか。
しかし、人生の歩みを進める中で、その価値観は本当に揺るぎないものなのか、問い直してみる時が訪れるかもしれません。「広いこと」「多いこと」が、必ずしもそのまま豊かさにつながるのか、あるいは、そこには別の側面もあるのではないか、と立ち止まって考えてみることには、意味があるように感じます。
「広い=豊か」の裏側にある「重さ」
広い家やたくさんのモノを持つことには、確かに満たされる感覚があるかもしれません。物理的な空間が広いこと自体に、開放感やゆとりを感じる方もいらっしゃることでしょう。しかし、同時にそこには、見過ごせない「重さ」が伴うこともあります。
例えば、広い空間を維持するための管理の手間やコストです。掃除や手入れにかかる時間や労力、固定資産税や修繕費といった経済的な負担は、決して軽いものではありません。また、たくさんのモノに囲まれて暮らすことは、それらのモノを整理し、管理し続けることでもあります。一つ一つのモノには、手に入れた時の喜びがある一方で、時間が経てばメンテナンスや手放すという課題も生まれます。
こうした「重さ」は、知らず知らずのうちに、私たちの時間や精神的なエネルギーを消費している可能性があります。そして、いつしか「広い=豊か」という図式が、「広い=負担が大きい」という側面に繋がっていることに気づくこともあるかもしれません。
少ない空間に見出す、新しい豊かさ
では、「少ない空間」や「少ないモノ」に目を向けたとき、そこに新しい豊かさの基準を見出すことはできるのでしょうか。これは、「仕方なく少ない」ということではなく、「自らの選択として少ない」という視点から考える思考実験です。
限られた空間だからこそ、私たちはモノとの向き合い方をより深く考えるようになります。本当に自分にとって必要で、心地よさをもたらしてくれるモノだけを厳選するプロセスは、一つ一つのモノに対する感謝や愛着を育む機会となります。お気に入りの品々に囲まれた、狭くとも質の高い空間で過ごす時間は、心の充足に繋がるのではないでしょうか。
また、空間が少ないということは、管理の手間が少ないということでもあります。掃除や片付けにかける時間が減れば、その分、自分が本当にしたいことに時間を使えるようになります。読書をする、趣味に没頭する、大切な人と語り合う、静かに瞑想するなど、時間的なゆとりが生み出す精神的な豊かさは計り知れません。
さらに、物理的な空間に「余白」が少ないからこそ、私たちは意識を外側に向けるようになるという側面もあります。家の中に閉じこもるのではなく、積極的に外に出て、自然に触れる、地域の人々と交流する、新しい場所を訪れるなど、外部との関わりの中で新しい発見や喜びを見出す機会が増えるかもしれません。これは、物理的な空間の「狭さ」が、精神的な世界の「広がり」へと繋がるという見方もできます。
空間を通じて、自身の価値観と向き合う
「少ない空間=貧しい」という長年の思い込みを手放し、「少ない空間の中にこそ見出せる豊かさがあるのではないか」と視点を変えてみること。これは、単に住まいのサイズを変えるという話だけではありません。私たち自身が、何に価値を置いているのか、何があれば心満たされるのか、という自身の内面にある価値観と向き合う思考実験と言えるでしょう。
物理的な広さやモノの量といった、目に見える基準だけでなく、心地よさ、管理の手間、精神的なゆとり、時間の使い方、外部との繋がりといった、目には見えにくい豊かさの側面にも光を当ててみることです。
あなたの今の住まいは、あなたにとってどのような空間でしょうか。そして、あなたにとっての「心地よい空間」とは、どのような空間でしょうか。その空間で、あなたはどのような豊かさを感じることができるでしょうか。
住まいという身近なテーマを通じて、あなた自身の新しい豊かさの基準を見つける思考の旅が始まるかもしれません。