目標を絞ることで見えてくる、人生後半の新しい豊かさ
私たちはしばしば、「目標はたくさん持っている方が良い」「次々に新しい目標を設定し、達成し続けることが人生の活力につながる」といった考え方に触れる機会があります。確かに、若い頃やキャリアの構築期においては、多くの目標を追いかけることが、自己成長や可能性の拡大に繋がる側面も大きいかもしれません。
しかし、人生のフェーズが進み、特に後半と呼ばれる時期を迎えた時、この「目標は多いほど良い」という価値観は、必ずしも唯一絶対の基準なのでしょうか。私たちは立ち止まり、改めて考えてみる時期に来ているのかもしれません。
人生後半における「目標」との向き合い方の変化
年齢を重ねるにつれて、体力や時間、あるいは興味の対象も自然と変化してくるものです。かつてのように、いくつもの目標を同時に追いかけたり、エネルギーを分散させたりすることが難しくなる場面もあるかもしれません。
そのような時、「たくさんの目標を持てない自分は、以前より劣ってしまったのではないか」「何も目標がないと、人生が色褪せてしまうのではないか」と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは「目標の数=豊かさ」という、これまでの社会的な基準に無意識のうちに縛られている可能性を示唆しています。
人生後半とは、むしろ目標の「数」よりも「質」に目を向ける、新しい探求の時期と捉え直すこともできます。
目標を「絞る」という選択肢
たくさんの目標の中から、本当に大切だと感じるいくつかのことに焦点を絞ってみる。これは、何かを諦める、あるいは人生の歩みを止めることとは異なります。むしろ、限られた時間やエネルギーを、自分が心から価値を見出す対象に集中させる、意識的な「選択」であると言えるでしょう。
目標を絞ることで、どのような変化が生まれる可能性があるでしょうか。
一つには、時間や心のゆとりが生まれることが挙げられます。多くの目標に追われる日々は、たとえ充実しているように見えても、知らず知らずのうちに私たちに負荷をかけていることがあります。目標の数を減らすことで、一つ一つの目標に対してより丁寧に向き合う時間が生まれたり、あるいは目標とは直接関係のない、何もしない静かな時間を楽しめるようになるかもしれません。
また、精神的な負担の軽減も期待できます。達成できなかった目標に対する罪悪感や、複数の目標の間で板挟みになるストレスから解放されることで、心穏やかに日々を過ごせるようになるでしょう。
さらに、絞り込んだ目標に対してより深く集中できるようになります。多くの浅い経験よりも、一つのことを深く掘り下げる経験の方が、得られる学びや充足感が大きい場合があります。趣味であれ、学びであれ、人間関係であれ、本当に大切なものにじっくりと時間をかけることで、これまでは気づけなかった新しい発見や喜びが見えてくるかもしれません。
「少ない目標」から生まれる新しい豊かさ
このように、目標の数を減らすことは、単に「できることが少なくなる」という貧しさではなく、限られたものに集中することで「密度が高まる」「深みが増す」という、新しい種類の豊かさにつながる可能性を秘めています。
それは、例えば、 * 忙しさにかまけて話す時間が少なかった家族や友人との、質の高い対話の時間。 * ずっと気になっていたけれど手が出せなかった、一つのことにじっくり取り組む没頭する時間。 * 何かの成果を求めるのではなく、ただただ自然の中を歩くだけで心が満たされる時間。 * たくさんの情報に追われることなく、本当に大切な情報だけを選び取る静かな時間。
かもしれません。
これらは、かつて「目標達成」という分かりやすい成果に追われていた時には、見過ごしてしまっていた豊かさである可能性があります。目標を絞ることで、私たちは外向きの成果を求める視点から、自分の内側や身近な世界に目を向けるゆとりを得られるのです。
あなたにとっての「新しい豊かさ」とは
人生後半において、目標をたくさん持つことだけが、唯一の豊かな生き方ではありません。むしろ、「少ない」という状態を受け入れ、そこから何を見出し、どう味わうかという視点が、新しい豊かさの基準となり得ます。
あなたにとって、これから大切にしたい目標は何でしょうか。そして、その目標を絞り込むことで、どのような新しい時間や心の状態、そして新しい種類の豊かさが生まれる可能性があるでしょうか。
「目標は多いほど良い」という思い込みを一度手放し、ご自身の心に問いかけてみることから、あなただけの新しい豊かな人生後半が始まるのかもしれません。